【C向けサービスのPMF達成ステップ】②センターピンの発見
ベンチャーキャピタルW fundの佐藤です。スタートアップやメガベンチャーでPM・事業企画の経験を経て、現在シードアーリーステージの主にBtoC/BtoBtoCサービスを中心に投資活動をしています。
前回「ステップ①魅力的な市場に挑戦」をご紹介しました。今回は、PMF達成の「ステップ②センターピンの発見」を整理していきたいと思います。(note版はこちらから)
toCプロダクト開発/運営中の皆さんのヒントになれば幸いです!
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1. センターピンとは
まず、「センターピン」という単語ですが「ボーリングの先頭のピン = そこを倒せば順にピンが倒れていく最初に狙うべきもの」を意味している言葉です。
You have to find a small market in which you can get a monopoly, and then quickly expand.独占可能な小さい市場を見つけて、その後すぐに市場を拡大しないといけない。
シードアーリーステージでは資金が限られているため、想定市場の全顧客セグメントの全ニーズに答えるプロダクトを開発、マーケティングすることは不可能です。
必然的に現在持っているリソースで、どこかの顧客セグメント*に絞った、プロダクト開発・マーケティング活動をすることとなります。
(*「顧客セグメント」= 同じ解決策で解決可能な課題を持ち、同じマーケティングチャネル・メッセージでリーチ可能な集団)
有名な事例として、今では全ジャンルの商品を全世界で老若男女問わず販売しているアマゾンが以下図のように初期は本の販売から対象市場を拡大していった例があります。
TAM Onion 輪の一つ一つが顧客セグメントを表しています
一つの目安としてスタートアップは資金調達後1~1.5年間で次の資金調達を行います、皆さんのスタートアップでその1~1.5年の間に押さえるべき最初の顧客セグメントはどこでしょうか?
プロダクト提供価値の拡大や、マーケティング活動によるリーチの拡大と共に初期顧客セグメントからTAM(市場規模)が広がっていく
2. 顧客セグメントの優先順位
"【C向けサービスのPMF達成ステップ】①魅力的な市場に挑戦"のnoteで少なくとも市場規模1,000億円以上を見込める大きな課題を解決するべきと述べましたが、大きな市場の中からどのように最初の顧客セグメントを絞るべきでしょうか?
ポイントはシードアーリーステージの限られたリソースでも成果を達成できることです。どのセグメントなら最速でプロダクト価値を証明し得るかという考え方が重要になります。
"売上の8割が上位2割のコアユーザーによって作られる"というパレートの法則の考え方も踏まえ、以下のような観点から優先順位付ができると考えられます。
「初期顧客セグメントの優先順位付け」
観点① 課題が深く既に顕在化している顧客
- 切実に解決策を求め既に行動を起こしているユーザーが初期のコアユーザーとしてのポテンシャルが高く、顕在化している層はリーチもしやすい。
観点② 既存の代替手段に対し10倍優れた機能/体験を提供できること
- コアになる機能/体験で代替手段の10倍の価値を出すことで代替手段からのリプレース、また、口コミや熱狂が生まれる。
観点③ そのセグメントで構築した強みが次のセグメントでも活きること
- 市場規模とも関係しますが、あまりに拡張性が無い課題に対し機能やマーケティングチャネル開発をすると広がりがないサービスとなる危険性あり。
参考:顧客起点マーケティングよりパレートの法則図
3. センターピンの見つけ方:ユーザーインタビューのすすめ
それではそんな初期顧客セグメントをどのように見つけていくのでしょうか?
ここで有効な手法がユーザーインタビューです。直接ユーザーを知ることで、その人の課題の深さや、現在どのように解決を試みているのか、どういう背景で課題が発生しているのか、といったことをクリアに知ることができます。
以下、有効なインタビューの方法についてご紹介していきます。
目の前のユーザーの事実や行動にフォーカスしましょう
まず原則ですが、上記の通りユーザーインタビューは顧客を理解する手段ですので、よく誤解がある「こんなサービスがあったら欲しいですか?」とユーザーの"意見"を聞くものではありません。他にも「〇〇は大変ですよね?」など誘導尋問となるような質問で意見や考えを聞いても意味がありません。ユーザーはサービスを考えるプロではありませんし、自身の課題を言語化するプロでもありません。誰がどんな課題を持っているかファクトを集め、有効な解決策・サービスを考えることはプロダクト開発側の仕事です。
原則を踏まえユーザーインタビュー実施にあたり各ステップの詳細です。
ユーザーインタビューのステップ
ステップ① 誰が深い課題を持っているか仮説を立てる
まずは誰がどんな課題を持っているのか、仮説を立てておきましょう。仮説がないとそもそもインタビュー相手を決めることもできません。あなたのプロダクトを使い、感動する人や快適になる人はどんな人でしょうか?
ステップ② インタビューシート・台本を準備する
仮説ができたら30~60分のインタビューの時間を有効活用できるよう何を聞くか考えておきましょう。日本で最初のフリマアプリを作った際のインタビューシートが共同創業者のtakejun氏ブログにございますが、改めて意見ではなくファクトを収集されていることがわかります。また、インタビューシートはなるべく詳しく話を引き出すために自由回答形式が望ましいです。
③ インタビュー方法・インタビューの流れを決める
聞きたいことを踏まえインタビュー方法や流れを考えます。
オススメは以下のような流れを、相手の表情がわかるよう対面かオンライン会議で行うことです。また、ファウンダー一人で実施するより、チームで実施しチームで顧客理解度を高めましょう。少なくとも進行1名、議事録1名は分けられる方がベターです。
1. 挨拶・本日の流れ説明
2. インタビューシートを埋めてもらう
3. インタビューシートを基に深掘りインタビュー
(3'.プロトタイプがあればインタビュー後に触ってもらう)
4. 感謝を伝える、今後もお願いする可能性があるので信頼関係を作る
5. インタビューの振り返り
注意点としては、この時点でプロダクトがあってもプロダクトを見せる前にインタビューシートの内容を聞くことです。相手の回答を誘導してしまうことを避けるためです。
④ ユーザーとアポを取る
ターゲット像に合う人物に話を伺う必要があります。アポの取り方は、直接の知人、知人からの紹介、インスタやTwitterで検索しDMを送る、少額で広告を回し事前登録等を集めてみるといった経路が多いかと思います。
人にお願いする際にハードルを感じる方もいるかと思いますが、私が聞かれる側としてインタビューに参加した際には、自分が困っていることはむしろ誰かに聞いて欲しく全く負担感なく対応していました。熱意を持って当たってみましょう。
⑤ インタビュー実施・効果的な質問ができているか都度見直し
冒頭は全力でフレンドリーに挨拶をしましょう。対面の場合は飲み物やお菓子を準備するなど相手の緊張を取る配慮をしましょう。インタビューシートを基に5W1Hでしっかり深掘りをして課題の背景や深さを聞きます。
インタビュー後は議事録や学びをまとめます。しっかりとインサイトを得られているか、また、誘導尋問していなかったかなど振り返り改善しましょう。注意点としては「たぶん」「そうだと思います」といった発言はこちらに合わせてくださり本心では無い可能性があります。一般論ではなくその人がどうしているのかファクトを聞きましょう。
⑥ 熱量を持って聞いてくれる人がいなければ、ターゲットor課題の見直し
誰がどんな課題を持っているか仮説が合っていれば、5回も実施すれば共感してくれる人が出てくるはずです。それが全くなければ"誰"や"課題"が誤っていると考えられるためターゲットor課題仮説を見直しインタビューをやり直してみましょう。これは悪いことではなく、プロダクトを作る前に素早く学ぶことができた良いことです。
SmartHR宮田氏「ユーザーヒアリングにはメソッドがあって、『〇〇に困ってますか?』と直接聞くのではなく、事実をヒアリングしていくなかで課題として定義した仮説を検証します。
SmartHRのヒアリングをした際、5人が5人、まるで仕込まれたかのように同じような返答があったのです。全員が同じような不満を感じていて、なんならこちらから聞かなくても悩みを話してくれるんですね。それまでの9個のヒアリングではそんなことはなく、5人にヒアリングをしたらみんなバラバラの返答だったのです。正直3人にヒアリングした時点で、心の中ではGOサインが出ていました。」
⑦ ユーザーの課題や代替手段の整理
仮説が確からしい場合は同じ顧客セグメントで10回も実施すれば共通点が見出せるようになってきます。どんなシーンで課題が発生するのか、動機、現状の代替手段等々まとめていきましょう。
本人達は課題と認識していなくとも、客観的にみると不合理な代替手段を行っている層が「課題が深く既に顕在化している顧客」と考えられます。
⑧ 十分に情報を得て確信が得られたら終了、顧客セグメントのグルーピング
共通のパターンが見えてきて、学びがないインタビューが2回続くならそこで一度インタビューをやめて良いでしょう。
どの顧客セグメントが課題が深い傾向にあるのか、意味ある切り口(性別、年齢、職業、学歴、地域、家族構成、所得、価値観、信念、趣味趣向、購買動機や商品の使用頻度等)を使ってまとめていきます。
適切なユーザーインタビューを行い、各顧客セグメントの理解度が上がれば、以下の基準に照らし優先順位付を行いセンターピンとなるセグメントを発見していきます。
「初期顧客セグメントの優先順位付け」
観点① 課題が深く既に顕在化している顧客
- 切実に解決策を求め既に行動を起こしているユーザーが初期のコアユーザーとしてのポテンシャルが高く、顕在化している層はリーチもしやすい。
観点② 既存の代替手段に対し10倍優れた機能/体験を提供できること
- コアになる機能/体験で代替手段の10倍の価値を出すことで代替手段からのリプレース、また、口コミや熱狂が生まれる。
観点③ そのセグメントで構築した強みが次のセグメントでも活きること
- 市場規模とも関係しますが、あまりに拡張性が無い課題に対し機能やマーケティングチャネル開発をすると広がりがないサービスとなる危険性あり。
この際、"客観的にみると不合理であっても何らかの代替手段を行っている"課題の深い顕在層と、「スキル」「アクセス」「時間」「資金」等の制約によってまだ行動が起こせていないが"自社のプロダクトによって解決できるようになる"無消費層がどのくらいいるかを分析し、初期ターゲット(顕在層)と将来スケール可能な潜在的な市場規模(無消費層)の双方イメージできるようになると「解像度が高い」状態と言えます。
また、スタートアップ・フィット・ジャーニーのいわゆる「Customer Problem Fit」ができている状態です。
馬田さんの解像度を上げるより
4. まとめ
今回は前回の市場選定の話を一歩深め、具体的にどの顧客セグメントからターゲットにするべきか、それをどのように発見するか、を説明してきました。"大きな市場規模が良い"という話と、"顧客セグメントを絞る"という話がトレードオフになっているように感じていた方もいらっしゃるかと思いますが、複数の顧客セグメントを同時に狙うということは、初期から万人受けする豊富な機能を開発し、多種多様なマーケティングチャネルで複数の広告クリエイティブを展開するということとなり、結果シードアーリーステージのリソースではどれも中途半端な成果になってしまいます。
(「顧客セグメント」= 同じ解決策で解決可能な課題を持ち、同じマーケティングチャネル・メッセージでリーチ可能な集団)
大きな事業を作るにあたり直感に反するかも知れませんが、初期はバイネームで声がけが出来るほど超具体的な個人にフォーカスし、無数にある小さな課題や改善点は無視し、本質的で大きな課題の解決のみを目指してプロダクトを作ることが王道となります。
以下にセンターピンを発見・検討するためのポイントをまとめます。参考にしてみてください。
「②センターピンの発見」検討ポイント
・課題が深く既に顕在化している顧客はどういう人ですか。
・どのようなユースケース、背景、原因で課題が発生しますか。
・現在その顧客はどのような代替手段をとっていますか。
・既存の代替手段に対し10倍優れた機能/体験を提供できますか。
・まずはどの顧客セグメントにフォーカスしますか。
・初期の顧客セグメントの次はどのように広がっていきますか。
次回のnoteでは、【C向けサービスのPMF達成ステップ】③熱狂にフォーカスをご紹介します。以下の図で言うと、③「Product:満足させるプロダクト」を説明する内容になります。
①「Market:良いマーケット」
✔ 市場規模が大きく、今後も成長が見込まれているタイミングであること
✔ 既存代替手段/先行企業の存在を考慮した上で参入機会があること
②「User Need:顧客の課題」
✔ 初期のコアとなる顧客セグメントが説明できること
✔ 顧客の背景、代替手段、本質的な課題を当事者のように説明できること
③「Product:満足させるプロダクト」
□ 既存の方法よりも10倍良くなる、実現可能な解決策がわかっていること
□ 誰がいつなぜどのくらいどのようにプロダクトを使うのか、カスタマーサクセスが言語化できていること
④「Channel:提供できること」
□ 顧客にどのチャネルでどのように訴求するかわかっていること
□ デリバリー方法のエコノミクスが成立していること
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