【C向けサービスのPMF達成ステップ】④トラクションを作る

起業家・プロダクト開発中の方々に向けて、事業のアイデアや起業のノウハウを配信していきます。
佐藤 直紀 2023.02.14
誰でも

ベンチャーキャピタルW fundの佐藤です。スタートアップやメガベンチャーでPM・事業企画の経験を経て、現在シードアーリーステージの主にBtoC/BtoBtoCサービスを中心に投資活動をしています。


前回はステップ③熱狂にフォーカスと題してユーザーを満足させるプロダクトを作るプロセスについてご紹介しました。
今回はPMF達成の「ステップ④トラクションを作る」を整理していきたいと思います。トラクションはPMFの証左として重要となります。
toCプロダクト開発/運営中の皆さんのヒントになれば幸いです!
事業や資金調達のご相談はお気軽にご連絡ください(twitter: @naokisato31)!

1. トラクションとは

「トラクション」とは、事業成長の兆しや顧客需要を示す成長のことを言います。トラクションを示すことで事業の成長性を説得力を持って社内外に伝えることができます。

「トラクション」とは事業成長の兆しや顧客需要を示す成長のこと

「トラクション」とは事業成長の兆しや顧客需要を示す成長のこと

下図は弊社W fund支援先「パラレル」がPMFを確信した際のトラクションです。マッチングサービス形式のVer.1アプリから、ボイスチャットの音質問題にフォーカスしたVer.2アプリを出した結果DAUが急増し(インタビュー)、事業の成長性を力強く示すことが出来ています。

「トラクション」を⽰す指標

トラクションを示す指標は、売上やMAUといった価値が提供できていることがわかる本質的な指標であり、それが増加することで成長を予期させるものであると説得力があります。
逆に確からしさがわからない指標としては、ユーザーが時間的・金銭的コストを払っていないもの、例えば「SNSのいいね数」「登録ユーザー数」「安過ぎるクーポンを出した上での販売数」などがあります。
ビジネスモデルや事業状況により以下のような指標が用いられています。

トラクションを示す指標の例

トラクションを示す指標の例

「トラクション」を⽰す成⻑率

急成長の兆しとして、プロダクト初期のベンチマークとして有名なものが、Y Combinatorに参加した優れたスタートアップの成長率をもとにした「週次7%の成長率」です。


プロダクト初期は、"【C向けサービスのPMF達成ステップ】③熱狂にフォーカス"のnoteにあるように少人数のユーザーでも愛されるプロダクト作りが肝要であるため、例えば絶対値で「来月に5万MAU」を目標として、顧客セグメントや広告効果が不明瞭な中で強引なPRや広告等を行うよりも、先週・先月からの成長率を指針に目の前のユーザーに向き合い以下のような観点からプロダクトの改善を推し進めていきます。

● どんな顧客セグメントが熱源になっているのか。
● その顧客にとってマジックモーメント*は何か。  
 (* 提供価値を体験しAHAと感じるポイント)
● AHAと感じさせるために必要な状況やプロダクトの要素は何か。
(SNSを起動する度に面白いコンテンツがある状況 → 最初に10人フォローさせるべき等)

大きく成長していった人気C向けアプリの初期のユーザー獲得手段も、以下のように目の前のユーザーに直接向き合いスケールしない泥臭い手法が中心となっています。自身のサービスの"N1(一人の顧客)"に有効な手法はどれか参考にしてみてください。

オフラインでユーザーを獲得した「Uber」の例

オフラインでユーザーを獲得した「Uber」の例

オンラインでユーザーを獲得した「Instagram」の例

オンラインでユーザーを獲得した「Instagram」の例

2. 成長エンジンの検討

上記のようにスケールしない泥臭い手法で初期顧客セグメントにリーチし、"【C向けサービスのPMF達成ステップ】③熱狂にフォーカス"noteにあるプロダクト開発・検証を進め、「流入 ~ 継続利用 ~ 収益化」に至るファネルを改善、ユーザーに愛されるプロダクトとなりActivation(活性化)やRetention(継続)が改善され「バケツの穴」が埋まってきたらスケールに向けた活動に進みます

プロダクトを提供し目指すべき顧客体験・カスタマージャーニーと、KPI・検証注力順

プロダクトを提供し目指すべき顧客体験・カスタマージャーニーと、KPI・検証注力順

Activation・Retentionの改善はこちらのnoteも参考にしてみてください。

"C向けサービスの成長エンジンは4つしかない"

C向けサービスが大きく成長していく時、主要な持続的成長エンジンは以下の4つに集約されると言われています。企業はアクティブユーザー・コンテンツ・資金を燃料としてエンジンに投入し成長サイクルを回していきます。以下、それぞれの成長エンジンについて説明します。


「バイラル」

既に初期のユーザーから口コミが発生している場合や、SNSのようにユーザーが多い程に価値が増すプロダクトの場合は、バイラルで事業拡大を加速できる可能性があります。
バイラルでのユーザー獲得数を増やすためには招待の数や頻度を改善することが重要になります。以前大きく以下5つの方向性に分類、整理してみましたので参考にしてみてください。


「SEO」

ユーザーが直接解決策を想起せず検索し問題の解決に取り組むサービスの場合はその検索プラットフォームで上位に表示されることが重要になります。SEOについては多くの対策ノウハウが書籍等でまとめられているので具体的な改善方法はそちらを参考に頂ければと思いますが、初期のスタートアップとしては、まずどんなカテゴリー/キーワードを狙うべきなのか、狙ったカテゴリーで上位を取っていけるのか、エコノミクスが合うのかを確認することで、メインの成長エンジンとして機能し得るのか検証していくことをオススメします。

「パフォーマンスマーケティング」

サービスのLTVが十分に高い場合はfacebookやgoogle等の広告を活用することでユーザーを集めていくことができます。顧客のライフタイムバリュー(LTV)と顧客獲得コスト(CAC)については、一般に「LTV/CAC>3」が健全な水準と言われています。(回収期間についてはこちらもご参考まで)
類似サービスや足元の実績を基に、自身のサービスがどのくらいのLTV(ARPUや継続率等)であるのか、CACはどのくらいの水準になるか、またLTV/CACを競合よりも高めていける優位性を作れないか、といったポイントを整理しメインの成長エンジンとして機能し得るのか検討してみましょう。

「セールス」

toCサービスの拡大期に主要なチャネルになることはあまり多くありませんが、対象となるユーザーやキーマンをリストアップできる場合は直接営業していくことが早いと考えられます。この場合も、営業やCSの人件費に基づきCACを算出しLTV/CACが健全な水準となるか検討してみましょう。

3.マーケット x プロダクト x マネタイズ x チャネルのフィット

大きく成長するサービスは上記成長エンジンを最大限活用できていますが、そのためには、マーケット(ターゲット顧客/課題) x プロダクト x マネタイズ  x マーケティングチャネルが整合している必要あります。下図に資産運用サービスを例に出していますが、マーケット(ターゲット顧客/課題)次第で、フィットするプロダクト提供価値、マネタイズ方法、成長エンジンがそれぞれ異なることがわかるかと思います。

「マーケット x  プロダクト x マネタイズ x チャネルのフィット」

「マーケット x プロダクト x マネタイズ x チャネルのフィット」

自身のサービスが、どういうユーザー数xARPUの構成で売上数億~数十億円を形作るのか、ARPUも踏まえどの成長エンジンを活用しその規模までスケールしていくのか、その道筋やエコノミクスの検証を進めていきましょう
バイラルで成長するモデルならバイラル係数が、広告やセールスで成長するモデルならLTVとCACの改善が、またSEOの場合は狙っているプラットフォームで検索上位を取れるかが重要となります。
それが確認できればスタートアップ・フィット・ジャーニーのいわゆる「Product Market Fit」ができている状態です。

- 「Product Market Fit」ができている状態 -
ユーザーはプロダクトをすぐに購入し、アクセス過多でサーバーが落ちたり、機能追加やサポートの要望で手に負えなくなったり、採用しないと顧客の要望に対応できない、という状態になります。Twitch創業者は"PMFまでは巨大な岩を押しながら山を登る感覚、そしてPMFで頂上に着くと山から勢いよく落ちる岩を追いかける感覚だ"と表現しています
【C向けサービスのPMF達成ステップ】⑤C向けサービスのPMF達成基準


また、スケールに際し求められる組織体制も、マーケット(ターゲット顧客/課題) x 提供プロダクト x マネタイズ  x マーケティングチャネル次第で異なります。
PMF後は"採用しないと顧客の要望に対応できない"状態になりますので、このフェーズになれば成長戦略と並行して「スケールのための組織設計」も本格的に進めていきましょう。

組織を構成する基本要素 <a href="https://www.amazon.co.jp/%E4%B8%A1%E5%88%A9%E3%81%8D%E3%81%AE%E7%B5%84%E7%B9%94%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%8B%E2%80%95%E2%80%95%E5%A4%A7%E4%BC%81%E6%A5%AD%E7%97%85%E3%82%92%E6%89%93%E7%A0%B4%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%8C%E6%94%BB%E3%82%81%E3%81%A8%E5%AE%88%E3%82%8A%E3%81%AE%E7%B5%8C%E5%96%B6%E3%80%8D-%E5%8A%A0%E8%97%A4%E9%9B%85%E5%89%87/dp/4862762867" target="_blank">両利きの組織をつくる</a>より

組織を構成する基本要素 両利きの組織をつくるより

4. まとめ

今回は事業成長の兆しや顧客需要を示す「トラクション」について紹介しました。トラクションを確認することで事業の成長性を説得力を持って社内外に伝えることができます。
以下に検討ポイントをまとめます。参考にしてみてください。

「④トラクションを作る」検討ポイント
・自社のサービスのトラクションを示す指標は何ですか。
・最初の100人、1,000人をどのように獲得していきますか。
・Retentionが改善できていますか。
・持続的成長エンジンは何だと思いますか。
・その成長エンジンがワークする兆しを示すことができますか。

これまで全5回の本シリーズで整理してきた内容をクリアにできると以下の「PMF」に至る状態となってるかと思います。

①「Market:良いマーケット」
✔ 市場規模が大きく、今後も成長が見込まれているタイミングであること
✔ 既存代替手段/先行企業の存在を考慮した上で参入機会があること
②「User Need:顧客の課題」
✔ 初期のコアとなる顧客セグメントが説明できること
✔ 顧客の背景、代替手段、本質的な課題を当事者のように説明できること
③「Product:満足させるプロダクト」
✔ 既存の方法よりも10倍良くなる、実現可能な解決策がわかっていること
✔ 誰がいつなぜどのくらいどのようにプロダクトを使うのか、カスタマーサクセスが言語化できていること
④「Channel:提供できること」
✔ 顧客にどのチャネルでどのように訴求するかわかっていること
✔ デリバリー方法のエコノミクスが成立していること

アイデアを考え・ユーザーを理解し・解決策をユーザーが満足するプロダクトに落とし込み・実績を示すトラクションを作る、このプロセスにはメジャーなC向けサービスでも数ヶ月~数年かかっていますので、根気強く進めていく必要があります
そのためシード期はその時間軸を踏まえた資金繰り、バーンレート、チーム体制を逆算して考える必要があります。例えば、ランウェイが18ヶ月ならシリーズA調達活動に3~6ヶ月かかるとして12ヶ月強でトラクションを示す必要があります。初期版のプロダクトリリースにかける時間、顧客獲得にかける時間を12ヶ月後から逆算して計画しておきましょう。

最後に、PMFに至ることでスタートアップは急成長していくことになりますがPMFは一度達成すれば終了するものではなく、マーケットの変化や、新しい顧客セグメントへの拡大に伴い何度も行っていく必要があります。以下のFacebookの例でもグローバル化、モバイル化と何度もPMFを達成し急成長を続けていることがわかるかと思います。

Y Combinator <a href="https://review.foundx.jp/entry/how-to-get-users-and-grow" target="_blank">Gustaf Alstromer</a>

Y Combinator Gustaf Alstromer


ーーー

最後までお読みいただきありがとうございました!
引き続き、起業家・PM・エンジニアの方々がベストプラクティスをシェアしていけたらと思っています!
起業家/起業準備中の方々の事業や資金調達についてのご相談はお気軽にtwitter: @naokisato31からDMください!
それでは次回のニュースレターでまたお会いしましょう!

無料で「dots」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
【C向けサービスのPMF達成ステップ】③熱狂にフォーカス
誰でも
【C向けサービスのPMF達成ステップ】②センターピンの発見
誰でも
【C向けサービスのPMF達成ステップ】①魅力的な市場に挑戦
誰でも
【C向けサービスのPMF達成ステップ】⑤PMFを示す
誰でも
【C向けサービスの成長エンジン】バイラルの伸ばし方
誰でも
【C向けサービス最重要指標】リテンションの測り方・改善のポイント
誰でも
【dots】Weekly Newsletter Vol.7
誰でも
【dots】Weekly Newsletter Vol.6